大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)196号 判決

二 取消事由(1)について

被告が特許庁に提出した証拠の写であることが当事者間に争いのない甲第四号証の一、二、成立に争いのない乙第二号証、第三号証の一ないし七によれば、本件の無効審判の請求人である被告は、審判手続において、雑誌「新建築」三三巻八号(株式会社新建築社、昭和三三年八月二五日発行)の表紙、二〇枚目表、二〇枚目裏、二一枚目表、二一枚目裏、二二枚目表、裏表紙の各写を一括して甲第一号証の一として提出し、このうち表紙、裏表紙、二一枚目裏、二二枚目表を撮影した写真及び二一枚目裏、二二枚目表の引用意匠を拡大して撮影した写真(いずれも撮影日昭和五六年六月一七日、撮影者飯田昭夫)を甲第一号証の二として提出したこと、右雑誌が特許庁に保管されていることが認められ、右の甲第一号証の一及び同号証の二として提出した証拠の写(本訴甲第四号証の一及び同号証の二)が特許庁から原告に送付されたことは原告の認めて争わないところである。そして、右の甲第一号証の一の申出は、被告が原本たる雑誌「新建築」三三巻八号を提出したことを認めるに足りる証拠はないので、前認定の各写を提出することによつてなされたものと認めるほかないが、当該文書(本件の場合は準文書の性質を有するものと解せられる。)の原本と同一のものが当該事件の審判機関たる特許庁に保管されており、かつ審判手続が口頭審理ではなく書面審理により行われている(この事実は被告において明らかに争わないところである)以上、右のような証拠申出の方法は意匠法五二条、特許法一五一条が準用する民事訴訟法三三二条、三二二条にかかわらず適式なものと認めて差支えないものというべきである。

そして、審決(成立に争いのない甲第一号証)を一読すれば、審決は、引用意匠の掲載された右雑誌「新建築」により、本件意匠と引用意匠を対比し、その類否の判断をしたものであることを明白に看取することができるから、審決に摘示されている「甲第一号証」とは、甲第一号証の一として審判手続において提出された右雑誌「新建築」中の前記該当箇所(特に二一枚目裏、二二枚目表)を指すものと解せられる。したがつて、審決が虚無の証拠により両意匠の類否を認定判断をしたという原告の主張は理由がない(なお、引用意匠は前記のように右雑誌「新建築」の二一枚目裏及び二二枚目表に掲載されているのに、審決はその掲載箇所を「雑誌新建築八月号の四頁ないし五頁」と摘示しているが、前掲甲第四号証の一によれば、審決は審判手続の甲第一号証の一の写により右の頁数を摘示したものと認められる。)。

また、右に述べたところによれば、被告による乙第三号証の一ないし七の証拠申出が時機に後れたものであるとの原告の主張も理由がないことが明らかである。

よつて、取消事由(1)は理由がない。

三 取消事由(2)及び同(3)について

1 意匠とは看者の視覚に訴えて美的印象を与える物品の外観であるから、何よりもまずその構成が全体的なまとまりとして把握されることが必要であり、個々の構成要素の認識がきわめて高度の正確性をもつてなされる必要はない。したがつて、物品の写真又は図画は、全体的な構成がまとまりあるものとして把握可能であれば、ある部位の長さ、太さ、傾斜度等について正確な数値は不明であつても、それが一応通常の手段で測定可能な限り、意匠的構成を備えており、意匠法三条一項一号、二号の意匠になり得るというべきである。

かかる観点から前掲乙第三号証の五、六に掲載された引用意匠をみると、乙第三号証の五は引用意匠に係る物品である建物用取手が両面に取付けられたガラスドアが九〇度に開かれた状態において、建物の外部から内部に向け右建物用取手を撮影した写真であり、乙第三号証の六は右ガラスドアが閉じられた状態において建物用取手をやや斜めから撮影した写真であつて、いずれの写真も全体としてまとまりのある「建物用取手」の外観として認識することが可能であり、水平部の長さも乙第三号証の六による限り一応の測定は不可能ではない。

したがつて、乙第三号証の五、六からは引用意匠の構成を把握できないとする原告の主張は理由がない。

3 原告は、引用意匠に係る物品である建物用取手を正面から撮影した写真(甲第五号証の三、四)による水平部、垂直状部、取付部の各測定値の割合と本件意匠の右各部位の割合との比較及び右写真に基づき作成した建物用取手の現物と本件意匠に係る物品として原告が作成したと主張する建物用取手の各部位の測定値の割合の比較により、本件意匠と引用意匠の類否を判断すべきものである旨主張する。

しかし、本件は意匠法三条一項二号、三号の該当性の有無、即ち意匠登録出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠との類否が問われているのであるから、本件意匠と対比されるべきは乙第三号証の五、六に掲載されている引用意匠そのものであつて、その意匠に係る物品を別の角度から撮影した写真や各意匠に係る物品の現物そのものによつて類否の判断をすべきものではない。したがつて、この点についての原告の主張は採用することができない。

4 以上の観点のもとに審決の当否を判断する。

別紙(一)の記載によれば、本件意匠の要旨は審決の理由の要点(請求の原因三)1のとおりであり、その水平部、垂直状部、取付部の各構成比は審決認定のとおり約一対五対二分の一であることが認められる。

次に、前掲乙第三号証の一ないし六によれば、引用意匠に係る物品である建物用取手は三栄商事ビルデイングの入口のガラスドアの外側と内側に取付けられており(引用意匠はこの両者に係るものを含むと解すべきである)、引用意匠の構成態様が水平部、垂直状部、取付部の構成比の点を除き審決の理由の要点(請求の原因三)2のとおりであること、右建物用取手の外側と内側を比べると、その取付部が後者より前者がやや短いほかは両者の水平部、垂直状部は等長であるが、その外観においてどちらかといえば前者が本件意匠に近い形態であること、右外側建物用取手の各部位の構成比は、水平部を一とすると、垂直状部約四・八、取付部約〇・六であることが認められる。(なお、右構成比は物指を用いた目算の結果によるもので必ずしも高度な正確性を有するものではないが、前記のとおり意匠は全体的なまとまりとしての物品の外観であるから、個々の部位の構成比の類否判断に当つては右の程度の測定結果をもつて足りるものというべきである。)

そこで、本件意匠と外側建物用取手に係る引用意匠を比較すると、両者とも意匠に係る物品が同一であり、その構成態様も各部位の構成比を除き一致している。そして、両意匠における各部位の構成比の差異も現実には看者に対し視覚上両者が別物であるとの印象を与える程著しいものとは認めがたい。そうであれば、本件意匠は引用意匠に類似するものといわざるを得ない。

5 以上のとおり、原告の主張する取消事由(2)及び(3)は理由がない。

四 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!